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エッセー

母なる自然のおっぱい

新潮文庫

著者:池澤夏樹

知恵を伝達し、流布し、蓄積することに成功してホモ・サピエンスは自然から遊離してしまった。そこには奢りと淋しさが同居している―。その透徹した視座より、捕鯨反対運動、沙漠に造られたエコロジー実験施設、旅、冒険、風景などについて明晰な論理を紡ぐ。凡庸な自然讃歌でも感情的な環境保護思想でもない、極めて知的で創造的な自然と人間に関する12の論考。読売文学賞受賞。

この作品のレビュー

六月に娘を産んだ。興味をそそる池澤タイトルの中で、今回この作品に惹かれたのも当然だろう。今や私の毎日は、おっぱいに明けておっぱいに暮れるのだから。

しかしタイトルから能天気な自然賛歌かと思いきや(いや、半分は嘘だ、池澤氏の本がそんな幼稚なもののはずはないとも同時に思っていたけれど)、知性を発達させ過ぎて他の動物達から孤立してしまった人間の寂しさと不安から始まる。意外な考えだったけれど、ストンと納得出来た。そうか、私達は心許なかったのか。人類の核家族化、なんて言葉が浮かぶのも、やはり私が核家族で育児中だからなのだろう、しかしあながち外れでもない気がする。

そこから池澤氏は、人間が隔たってしまった自然とは何かを丁寧に洗い直す。山や川、それに動物、植物。不必要に誇張することなく、様々な具体例を用いつつ、遠くなってしまったために人間が理解しにくくなりつつあるものを、あくまで人間の目の高さから描く。そこにあるのは自然に対する盲目の崇拝ではなく、愛なのだろう。描かれている自然は、時に厳しい。けれど、それよりはるかに愛おしい。この作品が感傷的なモノローグでないところも、読んでいて清々しかった。

読み終えて、泣く赤子に乳を与えながら、この子がもう少し大きくなったら、川釣りに連れて行こう、と思った。私は釣りの経験はない。けれど、人間と自然との基本図としてこの作品の中で描かれた、釣りを中心にした時間と空間はとても魅力的だった。「意識する自己とその眼前の世界」と池澤氏が表現するシンプルなその関係に、きっと娘は無邪気に飛びつくだろう。私は少し気まずそうに、照れ笑いなど浮かべるかも知れない。しばらくぶりに帰省して、実家のインターフォンを押す時のように。

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飯島美穂子さん

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作品情報

目次


ぼくらの中の動物たち
ホモ・サピエンスの当惑
狩猟民の心


ガラスの中の人間


旅の時間、冒険の時間
再び出発する者


川について
風景について
地形について
再び川について


いづれの山か天に近き
樹木論

あとがき
文庫版のあとがき

出版社:
新潮社
出版年月:
1996/1


あとがき などコンテンツの違いのある部分 :


「文庫版のあとがき」あり