エッセー

インパラは転ばない

著者:池澤夏樹

自分がいるところからひたすら北に向かって進むという原理で動いたら、いったいどんな旅ができるか。芥川賞作家の「道・旅」エッセイ。

この作品のレビュー

初めて宮古島を訪れたとき、空気がしっとりと重く花の香りなのか何なのかとてもかぐわしく感激したのですが、ああ、この感じなんと表現したら良いのか、誰かうまいこと表現してなかったかなと探していたところ、この『インパラは転ばない』に出会いました。

「タラップを降りる一段ごとに、湿った暑い空気にたっぷりと混じった芳香が肺の中に浸透して、ああ、熱帯に来たと思わせる。それは何度くりかえしても感動的な体験だ。」と。

まさにそのとおりだったので驚き、またそう言葉で表されているので、今後はこの文を読めばその時の感動を何度でも思い出すことができると嬉しくもなりました。

そんな感じで池澤さんが旅した場所について書いてあるのですがそのほかの話も大変興味深く、参考になりました。

というのも、単に旅というよりは短期間でもそこでちゃんと暮らしている感じがして、本当はどこに住んで何を見聞きし何を食べて生きるのが良いのか考えさせられたからです。

地方について「ぼくは日本の都市というものにうんざりしていた。どこへ行っても基本の部分は共通で、その表面にほんの少しだけ貧相な地方性が載っている。」とありました。

私自身子供時代は地方都市で育ち、まさにその貧相さが嫌で地方を離れたのでした。

池澤さんはそれでその後那覇に転居したそうですが、その沖縄の記述も素晴らしく、まるで理想の国のように思えてくる。

そしてまた生まれ故郷に転居したそうですが、なぜそうしたのかを訊ねてみたいです。

そして住むところだけでなく、食事だっていいものを摂ってる。

いいもの、といってもそれは高級品というわけではではない、その場所でその時しか食べられないもの、タイの汽車の中で売られている串に刺してパリパリに焼かれた豚肉と糯米を平たく固めたおにぎりの世界最小の焼肉定食、ギリシアの滋養のある朝食とネスカフェ、太平洋の南の小さな島のヤシ酒…。

私は地方を離れた今なお地方都市同然の町に暮らし、スーパーで買った全国どこでも手に入る食材で作った貧相な食事をしている。こんな生活がつくづく嫌になってくる。

池澤さんも旅先から帰るのはさぞ嫌なことだろうと思いきや…、惜しいとは思いながらも「快適で、清潔で、安全で、ものが匂わない空間」に「もう一度変身」して帰ってくる。

帰ってくる場所もまた旅先なのか。

と、自分の感想ばかり書いてしまいましたが、この本には飛行機や乗り物、空港や、旅程を味わっている様子も具体的に詳しく書いてあり移動自体を楽しむこともまた旅であることがよくわかり、今まで単に移動してるだけだった自分の旅した時間が惜しく思えたのでした。

 続きを読む

島村晴子さん

impala e-books 1周年記念レビューコンテスト・「その本が読みたくてたまらなくなるレビュー賞」「インパラのように軽やかなレビュー賞」

この作品のレビューを投稿しませんか?

cafe impala では、読者のみなさんのレビューを募集しています!

レビュー投稿ガイドライン

* が付いている欄は必須項目となりますので、必ずご記入をお願いします。

レビューを表示したい「作品」を選択してください。 ここでの関連付けを行うと、レビューが公開されます。(ステータス「承認」では公開されません。)

    入賞

    受賞した賞の名称を1つづつ入力します。

    1

     レビュー投稿フォームを開く

    作品情報

    目次

    うしろの正面
    曲り角で待っている
    遠いホテルへの道
    サイクリストの憂鬱
    船に酔わない体質
    インパラは転ばない
    サハラ沙漠の汽車ぽっぽ
    路上に怪異のあらはるること
    犬の散歩と男の散歩
    イスラエルの巨大なパフェ
    幼い2人の夢幻の旅路
    メスアカムラサキの策略
    コロンボ空港のペテン師
    商売往来、あるいは往来の商売
    スーパー・マラソン・バード
    アームチェア・パイロット
    コペンハーゲンの3時間
    路上観察の三つの成果
    アジア大陸への渡り方
    ホモ・ツーキンスの観察
    きみは何を踏んで歩きたい?
    「通い小町」についてのおそるべき真相
    セミ・ヌードでひとまわり
    迷うなら山羊の道
    家を出てまっすぐ北へ

    出版社:
    光文社
    出版年月:
    1990/6