011 「パンドラの時代」から「異国の客」へ
長らくご無沙汰しました。
前回、といっても3か月も前になるのですが、10年住んだ沖縄を離れてフランスへ移住することにしたと書きました。
それが実現して今はフォンテーヌブローという小さな町に住んでいます。パリから電車で40分ほどのところです。
前回の最後にぼくはこう書きました――
フランスに拠点を移すに際して「新世紀へようこそ」から「パンドラの時代」へと続けてきたこのメール・マガジンも少し様子が変わることになりそうです。
日本を離れることもあって、時局に速やかに応答するよりは広い視野でゆっくりとものを考える。思索的な日記のようなものになるのではないかと思っています。
(引用ここまで)
ぼくは書くことを仕事としてきましたが、書く前には考える過程があり、更にその前には見ることがある。見て、考えて、書く。
すべての文学、すべてのジャーナリズムはこの単純な原理の上に成り立っている。
見られる対象は世界です。
世界をどの距離から見るかで、考えも書くことも変わってきます。
「新世紀へようこそ」では日々起こることを最短距離から接写で見ていました。だから当初など毎日発信することができた(今から振り返ると、夢のようであり、悪夢のようでもあります)。
「パンドラの時代」ではだいぶ視点を引きました。後ろに下がって、もっと広い光景が見えるようにして、日々の事件を現代史の構図の中に位置づけることを考えました。
フランスに移ってから、さらに視点を後退させることを考えています。
ここでの暮らしの中からこの社会の原理のようなものを抽出し、その背後にヨーロッパを見て、それと日本のやりかたを比較する。その視線の先には昔からヨーロッパが深く関わってきたアフリカや中近東があります。
もちろん日本の背後にはアメリカがあり、アジアがある。
豊かな国々の背後には貧しい国がたくさんあることを忘れてはいけない。すべての問題はグローバルであり、またローカルでもある。
フランスの自分の住む町からはじめて思考を広げたいと思っています。
9.11以来ずっと人間の不幸を語ってきたような気がしますが、本当の目標は幸福を語ることです。さしあたってはその阻害因子を探ることになるとしても。
日常生活で体験することや、新聞・テレビ・インターネットがもたらす報道と評論、歴史や哲学の書、などを土台に考えるという点は「新世紀へようこそ」以来変わりませんが、事件や政策への批判のレベルを超えて、長い時間と広い世界を相手に思索をしたい。
ここで「パンドラの時代」という器を閉じ、代わりに、「異国の客」というタイトルで、この町での生活感と社会の原理をめぐる観察と思索を始めます。
今後はこれをメール・マガジンとウェブ・サイトで配信し、活字メディアとして集英社の文芸誌「すばる」にも載せます。
毎週配信のメール・マガジンの4回分が雑誌の1回分に当たります。「すばる」は毎月6日発売。その1週間後からメールとウェブ・サイトの配信が始まります。
「異国の客」の第1回はすでに「すばる」の11月号に掲載されています。テクニカルな理由から、初回のメール・マガジン配信はやや遅れることになりそうですが、その後は定時に送信できると思います。またサイト掲載の方も同様の理由で1カ月ほど遅れる予定です。今回はコメントが書き込めるような形にしたいと考えています。
スタイルは大きく変わりますが、ぼくが見て、考えて、書いているという点は「新世紀へようこそ」から変わっていません。
ゆっくりと考え続けていきたいと思っています。
(池澤夏樹 2004−10−14)
